ETYMOTIC RESEARCH ER4S レビュー/感想


茶茶
teatea
、探検隊 第三弾 驚異の解像度!幻の時代錯誤遺物(オーパーツ)は実在した!

 エティモティックリサーチのフラグシップイヤホンはER4SかER4SRか。ER4SR発売時にしばしば話題になった二つのイヤホンの頂上決戦。発売から20年以上経ってなお人々から支持される音とはいかようか?

 20年前に驚異の解像度を誇るイヤホンは実在した。全てが謎に包まれたER4Sの音の魅力、そこには我々の想像を絶する秘密が隠されている。その秘密を探るには身銭を切ってER4Sを手に入れなければならない。我々はその謎を解き明かすべくAmazonの奥地へと向かった。

ER4SRも持っているのに

    ER4SR(現行機)をすでに持っているのに二十年近く昔のER4S(先代機)を買ってしまいました。20年前のイヤホンなんて型落ちもいいところです。何故買ってしまったかというと、生産が終了して新品が在庫限りになってしまったことと移動時に使うER4SRから少し気分を変えたかったことからです。ER4SRを使えば使うほど騒音フリーのEtymoticの魅力に取り憑かれますし、ER4Sなら勝手しったるイヤホンに見えて未試聴でも躊躇いがありませんでした。そうして気づいたら手元にあったというわけです。今月は新しいMacBook Proとか買いたいので無いでしょうが、来月にはER4XRが手元にあるというわけです。

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イヤホンに対して箱がデカいです

低音について

   すごくBAドライバーらしい低音です。下の方まで見通しよく音が出ていますが沈み込む感じはあまりありません。普段ダイナミック型のイヤホンを使われている方からすると低音の量が足りないように感じるでしょう。BA型の低音の鳴り方に慣れていれば音そのものは出ていることに気づくと思います。ただやはり低音はどう考えてもER4Sの強みではなく、質感は良くともその量感は足りないと言っていいと思います(我々エティマーからすると充分な量ですが)。ER4SRと比べてみると低音の質感と量が共に少し劣ると思います。低音は他の音より一歩奥で鳴っているように聴こえるので曲の演出装置として裏方に徹しているようにも感じました。低音が前に出てくることが嫌な人には最高の演出だと思います(私もFealtyを買う前まで前に出てくる低音が嫌いでした)。

中音について

    ER4S全体としてはほんの少しのドンなしシャリ寄りに聴こえるのですが、これは中音が引っ込んでいる感じとは違います。低音が裏方に高音がスポットライトになり、中音が自由にステージを闊歩する感じです。音場(ステージ)が狭いことでかまぼこ型にならずに中音だけがうまく分離し、かつ高音より前に出ない絶妙なバランスに思いました。明らかに音色に乏しく無機質な感じがするのですが、最小限の音で完璧な構造と制御がなされていてなんだか水墨画を見ているようです。一般に音の良いイヤホンは音色や解像度、スケールに優れていますがER4Sの場合解像度以外はかなり劣るものの音の陰影を感じさせる彫の濃い音だと思いました。

 

加えて、中音と高音の間にちょっとした谷を感じる気がします

高音について

    硬質ですっきりとしたエッジの際立つ鋭い音です。この高音はER4SRで少しマイルドになってしまっており,ER4Sだけが持つ特徴です。硬く刺さる音というよりもその解像度の高さから脳の中心に届くような刺激的で明瞭な高音と言えるでしょう。 特にシンバルの鳴り方はこれ以上ないと思います。本物のシンバルの音より好きかもしれないと感じるほどドライで角の立つ音です。高音については人によっては雑に感じるほどゴリゴリ出してきますが,この高音にハマると新しい曲を聴くときにとりあえずER4Sで聴いてみたくなります。

見た目,装着感について

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 装着感はER4SRと同じです(ER4SRレビュー)。見た目はおもちゃ同然にショボいです。手持ちの似た形状のイヤホンの中で一番ショボいイヤホンだと思ったので比べてみました。

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左上ER4Sから時計回りにおよそ3万,3万,1万,3000円です。

写真で見ると意外とマットで良い黒だと思えるかもしれませんが,手に取ってみたときの安っぽさはなんとも言えません。軽くてざらざらしているので音を知らなければ100円イヤホンだと思われても納得のつくりです。ER4SRになって音だけでなく見た目もかなり良くなったことがわかりました。

曲ごとの感想について

例のごとく気分で選んでます。だいたいジャンルは合わせてますがER4SRと同じ曲ではありません。すみません。

Keith Jarrett:The Well-Tempered Clavier, Prelude&Fugue #5, In D major,BMV 850(J.S. Bach)

    キースジャレットのジャズじゃない奴です。ER4SRではピアノソロがつまらないとか書きましたがER4Sは逆に面白いです。高音を中心に少し右ペダルを踏みながら演奏しているような楽しさがあります。音の正確性ではER4SRが上なものの聴いた時の感触としてはこちらの方が好ましいことがよく感じられました。ER4SRと違って不完全さが音の繋がりを滑らかに演出してくれる感じがします。鍵盤のタッチの違いが顕著で層状の音の作りを感じました。

Keith Jarrett:Köln, January 24, 1975,PartI

 あまり何度も繰り返し聴き直せるものでないのですが書きたかったので少しだけ感想を残します。聴いて感じたことはピアノの弦の響きを味わうというよりも鍵盤へのタッチの違いつまり出てきた音の表面をなぞるように鑑賞できるということです。ER4Sは出音の鋭さだけは天下一品なので特に相性が合っていました。ER4Sで聴くピアノの高域の硬さは病み付きになるほどの魅力があります。ソロピアノ好きはER4Sをぜひ買ってみてください。

The Rolling Stones:Honkey Tonk Women

   カウベルがかなり浮き上がりこれが楽しくて堪らないです。遮音性が高いので左右のパンニングで若干気になるところはありますがもう慣れてきました。クラシックロックなどの直録りは気持ち悪いと感じる音源もあるかもしれません(まあ、慣れればいいんですよ慣れれば)。ギターがボーカルより上から降ってくる所も違和感といえば違和感ですがそれ以上に一音一音の持つ熱量がじわっと染み込む音だと思います。音は全体的に硬くとも音楽を硬くすることはないことのでER4Sの表現力の高さを感じます。

Imagine Dragons:Thunder

   ER4Sの低音はやはり充分な量ですね!これ以上低音を増やしたら曲のバランスを崩してしまいますよ(早口)。ドラムの低音はキレよくシンセサイザーの低音は滑らかに低音の描きわけはできています。この曲はドラムが鋭いのでパーカッション帯が潰れるかと思いきやあっさりと鳴らしきっているので驚きです。クラップ音はやや冷たくなってしまっているかもしれませんが曲の雰囲気に合っているのでよしとしておきます。

U2:Vertigo

 この曲はベースまでしっかりと見通せることで気持ちよく聴ける曲だと思います。もちろんER4Sは低域までしっかりと出し切れています。ただ,ベースに関してはER4SRの方がずっと良いです。ER4Sでも十分クリアだった低音が一層クリアになっていてこれには驚かされました。ER4S特有の良さを中心に書くと,曲中のギターを擦る音(キュッキュ音)がとにかくドライなおかげで,耳障りでないというか曲全体が持っていかれすぎないというかそんな感じがして好きです。本当にバランスが良く特定の楽器やパート帯を聴き込まず全体を俯瞰して聴けますし聴かされます。

LMFAO:Party Rock Anthem

 BeatsじゃなくてEtymotic Researchなら踊らずにすんだと思います(MVを見てください)。こんなノリノリで頭に残るフレーズの大胆な曲なのに細かいところで異様に丁寧な作りだと思いました。ER4Sのおかげで多少お行儀よく聴こえますがParty Rockは健在です。本当にリズム帯七変化という感じでなんでこんな発想でリズムをキープできているのか謎です。ボーカルがメインにありながらどこでも聴きたいところに焦点を合わせられる描写力は素晴らしいです。全体的にバスドラムとシンバルの音が硬いおかげで柔らかめのボーカルに自然と注目できる感じに聴けました。シンセサイザーの透明感も強く曲の雰囲気とは裏腹にとても整っています。

LINKIN PARK:Burn It Down

 ER4Sの暗い雰囲気が季節も相まって冬の夜空を思わせました。広がり感のある曲で内側から外へと消えて吸い込まれている感覚があります。ドラムが激しいのですがER4Sは付帯音を響かせずスッと消してくれるのでこの感覚が生まれていると思いました。ER4Sは本当に感想を書くのが難しいです。曲を聴いている間はプレーヤーの停止ボタンが押せないだけで特に何が秀でていると感じることがないので書くことに困ります。とにかく余すことなく楽曲を伝えてくれるとかで良いでしょうか。

Kraftwerk:Dentaku

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米津玄師:PLACEBO

  男声ボーカルの透明感を余すことなく伝えてくれます。特徴的な旋律をどんどん重ねてくるのですが一つ一つをしっかりと追えるので楽しく聴けました。サビや間奏で使われるヴァイオリンの音の存在感がしっかりとしているのが良いですね。アニメソングやJ-POPなどでよく思うのですが,途中でヴァイオリンを差し込む曲は大体名曲です(個人の感想です)。ER4SはシングルBA型であることもあってかボーカルが抜けた時の物足りなさというのが少ないことも良いポイントです。曲全体を違和感なく捉え続けられるのはパワフルなシングルドライバーを持つイヤホンだけだと思います。

サカナクション:多分、風。

 この曲はER4Sで聴けるだろうと思っていた音と全く異なる印象を受けました。シンバルが薄く,ベースが強く出ています。そしてボーカルも神経質ですごく疲れる感じです。あまりにも疲れたのでFealtyで聴き直したくらいです。Fealtyで聴くぶんには何も問題なく良い音でした。何がここまで疲れる音なのか比べてみたところ,ER4Sだとボーカルが異様に細くなります。ベースもボーカルも包み込むような音にならず別のところで鳴っているようで,それをなんとか聴き取ろうとするので疲れるようでした。Etymotic Researchのイヤホンに相性の悪い曲なんて無いと思っていたのですが,この曲ははっきり言って悪いです。ER4SRで聴くと全く問題ないのでER4Sとだけ抜群に相性が悪いです。逆に相性の悪い曲を今まで聴いたことがなかったので驚きとともに記しておきます。

Yunomi & nicamoq:インドア系ならトラックメイカー(MP3)

 すごく相性が良いです。ボーカルと曲のバランスが抜群に良いです。歌い方も囁き声などでER4Sの良さが際立ちます。伴奏に関しても音が左右で分けられるだけでなく,上下で層状に感じられとても聴きやすく定位,分離ともに優れています。クラッシュシンバルの音が潰れず硬く粒立っているので良い感じに高域が伸びました。タイトなベースも含めて分離と広がりの気持ちよさには特別なものがあると思います。ER4SRはよりボーカルがせり出してくる感じで個人的にはER4Sの方が好きです。

最後に

 音は相変わらずエティモらしく輪郭強め解像度高めの硬い音でとても気に入りました。古い機種なので音質が多少劣ると思っていましたが全くそんなことはありません。ただかなり鳴らしにくいイヤホンなので昔のスマホやパソコンと直接繋げると音が出にくいかもしれません,が,ER4Sの購入を検討する人には余計な忠告ですね。ER4SRを持っている人には強くこのイヤホンを勧めたいと思います。ばっちり使い分けのできる音ですよ。

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@teateaudio (twitter)

追記

 DAP買い替えたいとずっと思っているのですが,なかなかピンとくるものがありません。dx300が気に入らなければもう家で使う専用にkann cubeを買おうかと思っています。それでは良いお年を。

追記2

KANNCUBEを買ってから少し聴こえ方が変わりました。詳しくはER4XRを買ってからER4S,ER4SR,ER4XRの比較といった感じで残しておこうと考えています。